小説

君がくれる幸せ
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『君がくれる幸せ』前編
※兄さんが里を抜ける前です。
未熟な文章で申し訳ないのです。


sideサスケ



 空気が擦れる音を僅かに感じて、気が付いたときには全てが終わっていた・・・。


◆◇◇


ここは、いつも兄さんが修行している練習場。
俺は兄さんの鮮やかで流れるような手裏剣術の修行を見ているのが大好きだ。
いつもの事ながら吸い込まれるように的に当たっていくクナイや手裏剣には目を奪われる。
「兄さんすごい!!」
兄さんが地面に着地したところに駆け寄って行き、俺は勢い良く抱きついた。
こうすると兄さんは俺の高さに合わせてしゃがんで、俺を抱きとめて優しく笑ってくれるのを俺は知っているから。
「やっぱり兄さんはすごいね!!あんな見えないところの的にもクナイを当てちゃうんだから!!」
兄さんは本当に本当にすごい!!俺は兄さんの事を誇りに思ってるし、兄さんは俺の目標でもあるんだ!!
いつか絶対俺自信も兄さんに引けを取らないほどの凄い忍者になって、兄さんと一緒に任務をするのが夢なんだ!!・・・だから兄さんもそれにちょっとくらい自信持ってもいいはずなのに、兄さんはいつも自分はまだまだだって・・・俺が兄さんの事を褒めても兄さんはくすくす笑って俺の頭を撫でるだけ・・・。
大好きな兄さんには、いつも笑顔でいてほしいから・・・こういう仕種も、俺は好きなんだけどね。

◇◆◆


カァーカァー・・・


「さてと・・・そろそろ日が沈むな。帰ろうサスケ」

随分と長い間修行に夢中になっていたようで、気が付けば烏が周りの森の巣に戻ってくる時間になっていた。
段々オレンジ色に染まっていく空を見上げながら足元のクナイを拾いあげ、立ち上がり手を差し延べる兄さんの綺麗な笑顔もオレンジ色で・・・ついポーっと見とれてしまった俺の表情は、逆光で兄さんには見えなかったと思う。
俺はその差し延べられた大きな手に自分の小さな手を重ねた。
掌も温かかったけど、それよりも心がすごく温かくなった。


歩き慣れた道を夕日に背を向け俺達は歩いていく。
俺は隣を歩く兄さんの顔を気付かれないようにちらっと覗き見てみた。

努力家で謙虚で優しい兄さん。
兄さんは自分の事にすごく無頓着だからわかってないだろうけど、正直兄さんは見た目もすごくカッコイイ。
本当に完璧すぎて困る。
そう、本当に困ってるんだ・・・。
だって、兄さんの誕生日が明後日にまで迫ってきているんだから!!
・・・それが今こんなに俺を悩ませている・・・。

なんだか兄さんの誕生日が来てほしくないような言い回しになっちゃったけど、そんなことはない。大好きな兄さんの誕生日だし、嬉しくないはずなんてないんだけど・・・けど・・・こんなふうに言うのには訳があって・・・。
実は・・・ずっと前から兄さんの誕生日プレゼントを何にしようか考えているんだけど、全然思いつかないんだ。
だって考えて見てよ、兄さんは完璧なんだ!!
きっと欲しいものがあれば俺があげるよりもずっと良いものを兄さんは手に入れられる。
俺が兄さんにできる事って言ったって、それこそ兄さんが自分でやったほうが確実で速いだろ。
・・・だから俺は困ってるんだ。
何もしないわけにも行かないし。



「・・・サスケ??」
「(びくっ)えっ!!何?何か言った?」
やばいっプレゼントの事考えてて兄さんの話し全然聞いてなかった。
「・・・??いや何でもないが、なんだサスケ、何か悩み事か?相談にならいつでものるぞ」
・・・本当に兄さんは優しいなぁ・・・そんなの、できるならとっくにしてるよ。
兄さんの事で悩んでるのに兄さんに相談なんかできるわけないじゃないか。
けど、心配してくれるのは素直に嬉しかった。
「ありがとう兄さん・・・でも、なんでもないんだァ・・・」
「・・・・・・」
兄さんは黙ってしまった。
もしかして俺が嘘付いてるのばれた?・・・いくら兄さんでも人の心の中までは読めないよね。
偶然だよね。
でもなんとなく兄さんの顔が見られなくて、俺は目線を地面に落としていた。
俺の視界は夕陽色に染まった道と、俺と兄さんの手が繋がった長い陰でいっぱいになった。

その時、ふと疑問に思った。

「・・・ね、兄さん。」
「ん?なんだ?」
「なんで・・・手を繋ぐって手を繋ぐって言うのかな?」
自分でも変なこと聞いてると思う。だけど、聞いてみたかったんだ。きっと兄さんは・・・

「それは、きっと手と言う物どうしをお互いに握り会うからじゃないか?一方だけが繋ごうとしても掴むだけになってしまう。それは簡単だろうけど繋ぐとは言えない。一人じゃできないことを繋ぐって言うんだよ。」

ほらね。
笑ったりごまかしたりしないで真面目に答えてくれる。
だから兄さんにはなんでも聞いてみたくなるんだ。
「なるほど。兄さんは何でも知ってるんだね!・・・兄さんは欲しいものなんでも手に入るんだろうなぁ・・・。」
俺がそういうと、兄さんは困ったように笑った。
「そんなわけないだろう。手に入らないものだらけだよ。」
「嘘だ!!だって兄さんは何でも出来るし何だって知ってるじゃないか!!」
俺はこの時これはまたどうせいつもの謙遜だろうと思ったから、尚更強く兄さんの台詞を否定した。
だけど、それは違った。

「全てが手に入って知ることが出来る人間なんている訳無いだろう・・・俺には欲しい物や知りたいことがたくさんある。」
「じゃぁ、それって何だよ!!」

俺がなかば叫ぶかのように言うと、しばしの沈黙が流れ、暫くしてからようやっと、兄さんは口を開いた。




「・・・そうだな・・・幸せ・・・かな。」



どこか呟くような兄さんの声は俺達以外に誰もいない河原の道に溶け込んでいって、妙な静けさを残した。

・・・俺はそれから家に帰るまで何も言うことが出来なかったんだ。










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